切手に隠された女王の横顔の秘密・世界編(後編)
2020/10/12
世界共通の制度として取り入れられているように思える切手ですが、その名も、導入された時期にもばらつきがあるようです。
そもそも、切手はいつどこでどのようにして生まれたのでしょう。
画像上:世界初の切手「ペニーブラック」
日本で切手が生まれたのは、明治初期の1871年3月1日(新暦では4月20日)のこと。しかし、このときすでに世界では切手を活用した郵便制度がすでに導入されていました。
世界で初めて切手が生まれたのは、1840年のイギリスです。発行日は5月1日、初めて使用されたのは5月6日のこと。すでに導入されていた近代郵便制度では、手紙を受け取る側が手紙の重さと距離に応じて非常に高い料金を支払っていました。そのため、受け取り拒否などの問題があり、郵便事業は大赤字でした。
この状況を制度の改正で改善しようとしたのが税制研究家のローランド・ヒル。料金の支払い方法を簡単にできないか検討した結果、切手が発行されることになったのです。
当時、図柄として採用されたのは、ヴィクトリア女王の横顔。協議の末、ヴィクトリア女王のロンドン市庁訪問を記念して描かれた、ウィリアム・ワイオンの作品が採用されました。
最初に発行された切手は1ペニーと2ペンスの2種類で、それぞれペニーブラック、ペンスブルーの愛称で呼ばれています。
縦23㎜、横19㎜のサイズで、裏のりは付いていますが、現在の切手にある「目打ち」と呼ばれる周囲のギザギザはありません。
当時から偽造防止対策がとられており、王冠の透かし模様が施されています。
画像上:1967年に初めて発行されたイギリスのマーチン切手シリーズ
当時の切手は1シートあたり240枚綴り。発売初日から大人気で、28万3,992シート、切手の枚数に換算すると6,815万8,080枚と大量に印刷されたそうですが、それでも足りず、あまりの人気ぶりに何度も増刷されたといいます。
その後、スイスのチューリッヒとジュネーブ、ブラジルがそれぞれ1843年に切手を発行。その後もさまざまな国や地域で次々に切手が発行され、瞬く間に全世界へ広がりました。
画像上:エリザベス女王をモデルとした各国の切手
実は、切手という名は日本独自のもので、世界では「スタンプ」と呼ばれています。
切手が導入される前、イギリスでは郵便物を受け取る際のしるしとして郵便物に印章を押していました。切手が発行された当初、切手には「ラベル」という名がついていました。
しかし、古くからなじみのあったスタンプのイメージや文化が影響し、ラベルは思うように広がらなかったそうです。
そのため、「スタンプ」という名が広がったのではないかといわれています。
画像上:エリザベス女王の横顔が印刷されているイギリスの切手
イギリス生まれの切手。日本を含めた多くの国では、切手の中に国名を記載しています。
しかし、世界で初めて切手を発行したイギリスの切手には、国名の記載の代わりにエリザベス女王の横顔が印刷されています。
これは、切手発祥の国とする、イギリスのプライドが影響しているのかもしれません。
文・滝沢紘子
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取材協力:切手の博物館
参考文献:
『切手もの知りBOOK』切手の博物館 主任学芸員 田辺龍太著
手紙文化と共に発展した切手の歴史・日本編(前編)