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その時代の暮らしや考え方を感じられる薬袋~歴史やデザインを辿る~

2023/07/07

  • 薬袋

クリニックや薬局などで処方された薬を、入れる封筒として使われている「薬袋(やくたい)」。その役割は、ただ薬を入れるだけではなく、薬の用法や容量、調剤年月日など、患者さんにとって必要な情報が記されています。また、処方する側のミスを防ぐためには、「薬袋の見やすさ」も重要だと言われています。今回は、そんな重要な役割を担う薬袋の歴史やデザインなどについて見ていきましょう。

その時代の暮らしや考え方を感じられる薬袋~歴史やデザインを辿る~


薬の歴史はとても古く、奈良時代初期に完成し、現存する中では日本最古の書物である『古事記』にも、薬にまつわる話がいくつか記されています。江戸時代(元禄3年)には、全国各地を訪問し薬を届ける「売薬業」も誕生しました。そして、売薬業の広がりとともに、薬袋も姿を変えてゆきます。

江戸~明治初期の薬袋は、木版刷りで文字が主体でした。しかし、商品名や効能を正確に記載するより、神秘的・呪術的なイメージが求められていたそうです。そのため、効能に「何もかも治る」と信じがたいことが書かれた薬袋も存在したと言われています。法律にもとづき記載する項目が決まっている現代では、考えられないことです。

その後、明治中期に入ると、政府の政策により西洋化が進み、薬も西洋薬が推奨されるようになります。すると東洋薬学をもとに生まれた売薬業は、西洋薬に対抗すべく、根拠のない「科学的な雰囲気を感じる表現や絵柄」を薬袋に記載し始めました。また、印刷に銅の凹版や凸版が使われるようになったのもこの頃からです。

売薬業の全盛期といわれた大正時代には、現代と同じ、色を刷り重ねて仕上げるオフセット印刷が浸透します。それに伴い薬袋のデザインも、文字からイラスト主体へと変化してゆきました。当時は文字を読めない人が多かったことも、イラストが主体となった理由の1つだと言われています。


そんな薬袋のデザインが、大きく変化したのは第二次世界大戦後のこと。この頃から、笑顔が印象的な女性のパッケージデザインが急に増え始めました。考えられる理由の1つとして、「売り方の変化」が挙げられます。

戦前は、「病気になったら辛い、苦しいから薬を買おう」という、ネガティブな面を消費者に訴えかけて購入を促す手法が一般的でした。しかし戦後は、「薬を買うことによって、こんなに楽になるよ、早く治るよ」という、ポジティブな面を強調する手法へと変化したのです。そのため、明るい印象を受ける笑顔の女性がデザインに採用されたと考えられています。

このように薬袋は、時代の流れを受け入れながら変化していきました。

その時代の暮らしや考え方を感じられる薬袋~歴史やデザインを辿る~

大正時代の薬袋

その時代の暮らしや考え方を感じられる薬袋~歴史やデザインを辿る~

裏面はダイアモンド型(三角形)のフタにしっかりと封かんされている

また、売薬業に欠かせない道具は薬袋以外にも存在します。その1つが、お土産です。当時、売薬業の人は顧客を尋ねる際に、子どもへのお土産として「紙風船」や「紙帽子」、「売薬版画」と呼ばれる版画絵などを配っていました。

とくに、江戸時代から300年以上の歴史をもつ越中売薬(富山県)の売薬版画は、鮮やかな色づかいで、七福神や歌舞伎など多様なデザインが印刷されていました。その1つ『新板いろはたとゑ尽』は、「石の上にも三年」や「笑う門には福来る」など、現代でも聞いたことのある”いろは歌”が書かれており、切り離し「かるた」として使っていたそうです。


続いては、現代の薬袋の素材やデザインについて触れていきます。
限られたスペースの中で、患者さんに必要な情報を届ける薬袋。現在は、薬によるトラブルを防ぐために、「薬剤師法」や「薬師法施行規則」などによって、必ず記載しなければならない項目も決まっています。

そのため薬袋のデザインは、情報を正しく、なおかつ零す(こぼす)ことなく伝えるためにも重要なのです。これまでは、上質紙を使用した長方形の薬袋が主流でしたが、最近はそれ以外のデザインも見かけるようになりました。

例えば、温かみを感じられるクラフト紙を使用した正方形の薬袋。

その時代の暮らしや考え方を感じられる薬袋~歴史やデザインを辿る~


薬を受け取る際に、気が重くなる人も少なからずいるでしょう。そんな時、薬袋を感じさせないデザインにすることによって、心への負担が軽くなるかもしれません。またクラフト紙は、コシがあり丈夫なため、薬の量が多くても型崩れしにくい点が魅力です。形も正方形にすることによって、取り出しやすくなり、薬の出し入れをスムーズに行えるでしょう。

そのほかにも、最近は模様やイラストの種類も増え、小児科であれば植物や機関車のイラストを、動物病院であれば、犬や猫のイラストを採用するなど、「〇〇〇専門の病院だな」と、ひと目で分かる薬袋が増えているようです。

このように薬袋は、時代とともに変化を繰り返し、現在の姿に落ち着きました。デザインからは、各時代の暮らしや考え方を垣間見ることができるため、興味深いと思った人も多いのではないでしょうか。手元に薬袋がある方は、どのような素材やデザインか注目してみてください。


文・鶴田有紀


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〈参考文献〉
・くすりとほほえむ元気の素 髙橋善丸 著|光村推古書院
・歴史と伝統|富山のくすり|一般社団法人富山県薬業連合会
https://www.toyama-kusuri.jp/ja/history/index.html
・くすりの情報Q&A|日本製薬工業協会
https://www.jpma.or.jp/

 

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