文明開化の時代に花開いた電報文化~歴史と変遷を辿る~
2023/02/10
お祝いの席や葬儀などの際に、文書を送るサービスとして利用する電報。電報が、最も身近な通信手段であった1960年代中頃には、国内の電報通数が年間8,000万通を超えていたそうです。現在も、卒業式や結婚式で読み上げるため、その存在を知っている人も多いのではないでしょうか。今回は、電報の歴史や変遷を辿ります。
電報が誕生したのは1870年。西洋の文化が広がり始め、文明開化によって日本の制度や習慣が大きく変わった明治時代です。しかし当初は、現在のように日本各地へ電報を送れたわけではなく、東京・横浜間と限定されていました。
そのうえ、まず送りたい文章の内容を通信文で電報局に送り、電報局はその内容を、届け先の地域にある中継局へ。その後、中継局の局員が紙に書いて配達する流れだったそうです。たいへん手間や時間のかかる方法ですが、当時は、郵便より電報の方が速く相手へ届くとして重宝されていました。
画像:電報の受付から配達まで|郵政博物館提供(https://www.postalmuseum.jp/)
その後、電報を送れる区間は少しずつ広がり、1875年には、日本のほとんどの地域に届くようになります。1930年になると、写真や絵画を送れる電報サービスも登場。さらに1936年には、慶弔電報制度も制定されました。
このように電報は、時代とともに変化を遂げ、今もなお「人生の節目に欠かせないもの」として使われ続けているのです。
画像:慶祝電報送達紙|郵政博物館提供(https://www.postalmuseum.jp/)
電報を送る際に使用する台紙は、厚紙や和紙、光沢のある紙素材などが一般的ですが、最近は織物や桐箱入り、レザー素材なども見かけます。このように、多種多様なデザインの台紙が増えていますが、電報を送る際に最も重要なのは、用途に合ったものを選択することです。
例えば、結婚式や卒業式のようなお祝い事であれば、「和紙に金彩を施した台紙や、光沢のある華やかな台紙」を、一方で弔電の場合は、「落ち着いた色味のシンプルな台紙、または刺繡や押し花をあしらった台紙」など。その他にも、宗派や相手との関係性も考慮して選びましょう。
例えば、蓮の花が描かれた台紙は仏式専用のため、キリスト教式では使用できないなど、宗派によって使用できないものもあり注意が必要です。
1934年には、「年賀電報」も誕生しました。
画像:年賀電報送達紙|郵政博物館提供(https://www.postalmuseum.jp/)
そして電報は、慶弔電報以外に、大学の合否を伝える手段としても使用されていました。合格の場合は「サクラサク(桜咲く)」、不合格は「サクラチル(桜散る)」と、電報に書かれていました。
しかし、なかにはユニークな文面の合格電報も。東京大学では、合格を「アカモンヒラク(赤門開く)」、不合格を「イチョウチル(イチョウ散る)」。青森県の弘前大学では、合格を「ミチノクノハルキタル(みちのくの春来る)」、不合格を「ツガルノユキフカシ(津軽の雪深し)」と。
その他にも、お茶の水女子大学の合格通知は「オチャカオル(お茶香る)」であったり、静岡大学では「フジサンチョウセイフクス(富士山頂征服す)」であったりと、土地や大学の特徴を生かしたユニークな文面となっていてようです。このような合格電報は、昭和30年代~平成初期まで使用されました。
現代は通信手段が発達し、遠く離れた相手とも瞬時に連絡をとれるようになりました。そのため、大学入試の合否発表や一般的な連絡手段として電報を活用する機会はありません。しかし、結婚式やお葬式など、人生の節目となる場面では今もなお重宝されています。
そのような格式の高い場で、誰かに言葉を贈るのであれば、温かみを感じられる紙の電報の方が良いのかもしれませんね。そういった意味でも電報は、大切な人が特別な日を迎えたことに対して心から祝福したり、時には旅立つ相手へ弔意を示したりする方法として、最も適した手段になっているのです。
文・鶴田有紀
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参考文献:
郵政博物館|日本郵政株式会社
https://www.postalmuseum.jp/
教員によるコラム「サクラサク」について|同支社女子大学
https://www.dwc.doshisha.ac.jp/research/faculty_column/2018-03-05-09-40
電報150年の歴史を振り返る「電報今昔」|西日本電信電話株式会社
https://www.ntt-west.co.jp/dmail/pickup/denpo150th/
飛脚から電信や電話、インターネット、SNSへ 「伝える」方法はどう変わった?|KDDI株式会社
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20220311/3273
取材協力・写真提供:
郵政博物館
https://www.postalmuseum.jp/