本の帯の歴史と文化~0.2秒の世界で手に取るきっかけをつくる~
2022/11/10
書店で1冊の本を視界に捉える時間は、平均して0.2秒。人はたくさんある本の中から、0.2秒の間に読むか読まないかを決めています。そして、手に取るきっかけとなるものの1つが「本の帯」です。今回は、本の帯に関する文化や歴史について触れていきます。
画像:本の帯の正式名称は「紙帯」であり、別名「腰巻」とも呼ばれています。
諸説ありますが、日本で初めて本の帯が登場したのは大正時代と言われており、当時の帯は簡易的なつくりでした。その後、昭和時代に入ると本に帯を付ける文化が一般化されます。そして、帯が広告として使われ始めたのも昭和初期です。店頭に並べた左翼出版物への宣伝効果を狙い付けられました。
現在も、人を惹きつけるキャッチコピーや「○○万部突破!」などの文字。著名人の推薦文が入った帯から、芸術作品ではないかと思わせるほどデザイン性の高い帯まで。紙の本が売れにくい時代に、1冊でも多く手に取ってもらえるように工夫がされているのです。
帯に使われている紙は、本の内容や表紙のデザインに合わせて選びます。
発色と写真の再現性に優れたコート紙や、良質な手触りと細部まで美しい印刷が可能なグロス紙などがあり、その上からフィルムやニスを使い加工を施すのです。最近では、ホログラムの箔押しや熱に反応し色が変わる特殊なインクを使用した加工なども登場しています。
本の帯を付けたことにより、「販売数が倍になった」「映画化が決定した」などという話も珍しくはありません。このように宣伝やPR効果もある本の帯ですが、日本独自の文化であることはご存じでしょうか。帯の付いた本が書店に並んでいる光景を、外国で見ることはほぼありません。本の存在を多くの人に知ってもらい、本と人をつなぐために日本人が考えた手段なのです。
画像:帯が付いていない外国の本。なかには、帯だけではなくカバーも付けずに販売している本もあります。
これまで本の帯のサイズは、4〜8cmが一般的でした。
引用元:運転者 未来を変える過去からの使者 喜多川 泰 著|Discover
https://d21.co.jp/book/detail/978-4-7993-2450-9
画像:一般的な本の帯。文章のサイズを変えたり帯を半透明にしたりと、書籍によって工夫がされています。
しかし最近では、8cm以上の帯も見かけます。大きくなると、より目に留まりやすくなり、さらなる宣伝効果が期待できることが理由でしょう。書店に並ぶたくさんの本の中から手に取ってもらうために、帯も試行錯誤を重ねているのです。
引用:オビから読むブックガイド(勉誠出版)|竹内勝巳 著
https://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100579
画像:表紙の半分以上を占める帯。帯の面積が広いとキャッチコピーや写真を強調され、視界に入りやすくなります。
最近は、表紙と同じサイズの帯が付いた本も見かけるようになりました。例えば、萩原浩さんの『神様からひと言』(光文社文庫)の帯は、全国の書店員さんからのひと言を全面に掲載。
引用:神様からひと言(光文社文庫)萩原 浩 著 |Amazon
https://www.amazon.co.jp/dp/4334738427
画像:『神様からひと言』の全面帯。著名人の感想や推薦文を載せている本の帯はたくさんありますが、書店員100人の感想を載せた帯はあまり見かけません。
本に詳しい書店員さんの言葉には、重みと説得力があります。また、100人という大勢の感想を載せることによって、ほかの本との差別化にもつながるでしょう。そのため、目に留まり思わず手にとってしまいます。
2021年の紙の出版物の販売金額は、前年より1.3%減少。反対に電子書籍は18.6%増加しました。場所を取らず、手軽に持ち運べる電子書籍の需要が高まっているのは、自然なことかもしれません。しかし、紙の本だからこそ感じられる良さもたくさんあります。
これからも人と紙の本をつなぐために、本の帯は進化を遂げていくでしょう。書店を訪れた際は、帯を通して本との出会いを楽しんでみてください。
文・鶴田有紀
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参考文献:
『出版辞典』|出版ニュース社
『帯で広がるぜいたくな読書体験』|加藤 詔士
出版月報|公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所