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時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(後編)

2022/10/11

  • ポスター

ポスターを語る上で欠かせないのが「紙」の存在です。 後編では、ポスターを取り巻く「紙」の世界と、国内唯一のポスター専門館についてご紹介します。

時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(後編)

画像:大垣スイトピアセンターにて開催された「ポスター展2022〜U.G.サトーの世界〜」の会場風景(筆者提供)

ポスター制作の際にどんな紙を選ぶか。それは、ポスターを作る目的や用途と深く関係します。

実用性を重視するなら「マット紙」
マット紙は商業施設やイベント、展示会といった実用性重視のポスターに多く使用されています。
マット紙は水性プリンターで印刷ができ、紙の表面がさらっとしていて光を反射しないことから、照明が差し込んでも絵や文字が読みやすい。また全体的にソフトで落ち着いた印象を出せることなどから、文字の読みやすさを重視するポスターに向いているためです。

イメージを重視するなら「光沢紙」
光沢紙は化粧品やブランドショップ、飲食店のメニューポスターといったイメージを重視するポスターに多く使用されています。
光沢紙は表面がつるつるしていて光沢感があり、色鮮やかで高級感のある表現を得意とすることから、ビジュアルイメージを重視するポスターなどに適しているためです。

屋外に展示するなら「合成紙」
合成紙は選挙などの屋外展示用のポスターで多く使用されています。
合成紙はプラスチックフィルムに似た特性があり、耐水性があって丈夫で破れにくいため、何週間も屋外に展示し続けるポスターの制作に適しているためです。

合成紙は見た目が木材パルプから作られた紙とよく似ており、印刷も可能であるなど、普通紙との差をあまり感じないかもしれません。しかし、合成紙の主原料は合成樹脂(プラスチック)であり、基本的には木材パルプを使用していないのです。つまり、合成紙はプラスチックフィルムに似た特性を持つことから、耐水性があり、丈夫で破れにくいというわけです。
合成紙の中には、主原料にプラスチック樹脂ではなく、サトウキビなどの植物に由来したバイオマス樹脂を用いた製品もあります。世界的規模での二酸化炭素排出量削減が大きな関心となっている今、こうした環境対応製品にも注目が集まっています。


最初の東京オリンピックを支えた特殊紙
1964年に開催された最初の東京オリンピックにおいては、4種類の公式ポスターが作られました。
このポスターの制作にあたって採用された特殊紙が、特種東海製紙株式会社が開発した「オペークオリンピア」です。
「オペークオリンピア」は、公式ポスターのために開発された紙であり、公式ポスターに必要とされる以下のような条件を兼ね備えていました。

グラビア印刷インキの着きをよくするために
・平滑性が高い
・弾性が高い

ポスターとして各所に掲示するために
・不透明性が高く裏抜けが少ない
・日光や風雨にさらされても劣化が少ない

当時の日本国内において、B1サイズのグラビア多色刷りポスターの制作は初めての挑戦でした。企画、デザイン、撮影、印刷と、それぞれの工程における関係者の尽力はもちろんのことですが、それらを受け止める「紙」が担った役割も極めて大きかったのです。
その後、「オペークオリンピア」は「マサゴオペーク」(現在は廃品)と名を変え、開発から50年以上に渡って愛され続けたということです。

時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(後編)

画像:展覧会初日より多くの人が会場を訪れた(筆者提供)

国内唯一のポスター専門館「日本国際ポスター博物館」
かつて、ポスターは情報を人々に広く知らせるためのツールの一つでした。やがてポスターは歴史の中で「アート」としての役割を担うようになり、単なる「印刷された紙」から「社会を映し出す鏡」へと変化していきます。

岐阜県大垣市にある「日本国際ポスター博物館」は、そんなポスターが持つ芸術的価値や視覚コミュニケーションの手段としての価値を評価し、発信することを目的に1996年に開設された国内唯一のポスター専門館です。

2022年4月、大垣市の文化会館である「大垣スイトピアセンター」では、「ポスター展2022〜U.G.サトーの世界〜」が開催されていました。これは日本国際ポスター博物館が所蔵するポスターの出張展です。

U.G.サトー氏は平和や環境をテーマにしたポスター制作にて、世界的コンクールで数多くの受賞歴を持つグラフィックデザイナー。日本国際ポスター美術館の設立期より、同館の活動と深いかかわりを持ち続けてきました。会場には、同氏の手による100点余りの作品が展示されていました。

時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(後編)

時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(後編)

画像:ポスターを鑑賞するU.G.サトー氏(左)と石田仁大垣市長(右)(筆者提供)

会場を訪れたU.G.サトー氏は、自らの作品を前にこう語りました。
「だって僕ら、毎日テレビで戦争のことを見ていても何もできないじゃない。だったら、せめて『今、ポスターでできることを』って思ってね」。

このようにポスターは、いつの時代も人々の思いと願いを映し出し続ける「鏡」であり続けているのです。


文・ながれのほとり


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取材協力:
特定非営利活動法人日本国際ポスター美術館
https://www.ogaki-postermuseum-japan.com/
大垣市スイトピアセンター
特種東海製紙株式会社

参考文献:
『紙と印刷の本』前田秀一 著/日刊工業新聞社
『個性派美術館を行く 岐阜県大垣市』2011年6月14日 中日新聞朝刊なごや東版


時代を映す鏡 ポスターが表す世界観(前編)

 

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