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引札からチラシへ~日本の文明開化と広告~(後編)

2022/04/19

  • 引札、チラシ

店や商品を宣伝するための広告媒体だった引札時代を経て、今は商品や価格を提示してお得な情報を提供するチラシへ。今の時代もチラシは私たちの暮らしに身近な存在です。 江戸・明治・大正とたどってきた引札・チラシの歴史。最終回となる後編では、大正・昭和から現代への移り変わりを見ていきましょう。

引札からチラシへ~日本の文明開化と広告~(後編)

画像:化粧品広告が盛んだった大正・昭和時代。画像は雑誌広告ですが、同様にチラシも数多くつくられました。
出典:国立国会図書館「本の万華鏡」/『主婦の友』12(5),主婦の友社,1928.5.【Z6-29】「過酸化水素クリーム」(資生堂)(https://www.ndl.go.jp/kaleido/)

明治以降、開国によって西洋文化が一気に流入。西洋風の化粧品も一般社会へ普及していきました。広告業界でも化粧品広告が一気に活発となります。粉白粉やペースト状の固煉白粉をはじめ、化粧水など一商品を宣伝する化粧品広告も多数つくられました。

現在でも化粧品業界をリードする資生堂。1872年(明治5)年の創業当初は薬屋でした。1915(大正5)年に創業者の三男である福原信三氏が経営を受け継いでからは、化粧品事業を主軸へと転換。信三氏は欧米での学びを活かし、デザインは重要な戦略と捉え、国内企業初の意匠部を設立。広告やパッケージデザインの制作を専門化したのです。

「資生堂スタイル」と呼ばれるデザインコンセプトは、こうした新しい取り組みが功を奏して生まれたのでしょう。ただ、化粧品広告は1941(昭和16)年12月の真珠湾攻撃によって日米が戦闘状態に入って以降、社会情勢の変化に伴い衰退していきます。

引札からチラシへ~日本の文明開化と広告~(後編)

画像:1952年(昭和27年)11月、第125代天皇の成年式と同時に「立太子の礼」が取り行われました。その際の記念大売出しセールチラシ。
出典:阿佐谷パールセンター商店街歴史資料室(http://www.asagaya.or.jp/archives/archivespaper.html)

チラシはその当時の社会情勢を色濃く残します。この画像もそのひとつ。戦後復興時の1952年に青年を迎えた第125代天皇のお祝いと銘打った、大売出しチラシです。2色刷りで文字数も少なめ、シンプルなデザインとなっています。

この他にも、お得な商品名や価格などが掲載されたチラシも残存。デザインは今とは異なるものの、少しずつ私たちが毎日見かけるチラシのベースが生まれつつあることが伺えます。

引札からチラシへ~日本の文明開化と広告~(後編)

画像:1960年(昭和35年)、歳末セールのチラシ。特賞は何と「日野ルノー」!モダンな車体が当時を物語ります。
出典:阿佐谷パールセンター商店街歴史資料室(http://www.asagaya.or.jp/archives/archivespaper.html)

1960年代にもなると、高度経済成長期の真っ只中です。このチラシには特賞として「日野ルノー」が登場しています。1950年代から1960年代にかけて人気を博したこの車。丸っこい可愛いフォルムが印象的で、何とも「昭和」な味わいを醸し出しています。

チラシの色味も、今のようなはっきりくっきりしたものではなく、少し温かみを残しています。どこか懐かしさを感じるのは、セピアな色味を感じるからでしょうか。

引札からチラシへ~日本の文明開化と広告~(後編)

画像:新聞の折り込みチラシでセール品をチェック!カラフルでありながら、価格や性能などが詳細に記載されています。

今日のチラシは、デザインはもちろんのこと、より正しく詳細な「商品情報と価格」が明記されていることが大前提にあります。チラシをつくるにあたり、それらも忘れてはならない大切な要素のひとつです。

しかし原点に立ち返ってみると、見る人の心を打つようなキャッチコピー、シンプルながらも忘れられないデザイン。そんな、事細かな情報だけではない「引札のようなチラシ」があってもいいかもしれませんね。


文・杉本友美

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参考文献:
『大正昭和レトロチラシ 商業デザインにみる大大阪』橋爪節也 著/青幻舎
『浪漫図案 明治・大正・昭和の商業デザイン』佐野宏明 編/光村推古書院
『図解 戦時下の化粧品広告<1931-1943>』石田あゆう 著/創元社
『日本の商業デザインー大正・昭和のエポックー』近代ナリコ 序文・安田英樹 発行/青幻舎
『絵とき 広告「文化誌」』宮野力哉 著/日本経済新聞出版社
『ものと人間の文化史130 広告』八巻俊雄/法政大学出版局
『最新業界の常識 よくわかる広告業界』伊東裕貴 編著/日本実業出版社

 

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