文具からアートまで 進化をとげた付せんの魅力
2013/06/13
文房具選びはいくつになっても楽しいものです。
ノートひとつとっても、カラフルな色や、おしゃれなデザインが多いですね。
昔はまず機能性や便利さを求められがちだった文房具ですが、近年ではそれらの要素に加えて、使う楽しさも重視されています。
その代表が「付せん」ではないでしょうか。
今回は「付せん」の進化とトレンドを探ります。
発想の転換から生まれた付せん
付せんとは、メモ書きを一時的に書籍や文書に張り付けるために使用される紙片――とあります。
この付せんの誕生は1968年アメリカ。
科学メーカー3Mの研究員スペンサー・シルバーは、強力な接着剤を開発中にもかかわらず、接着力がとても弱いものを作り出してしまいました。
そして、何につけてもくっつかない接着剤をみた同僚が「本のしおりにしてはどうだろう」と助言したことから、接着力の弱い接着剤の研究が始まったといいます。
約10年後の1977年には試作品が完成。
この試作品が大企業の秘書課に配られ、大好評を得て、1980年に全米で発売されることになりました。
「ポストイット」と命名されたこの付せん。
またたく間に世界に広がり、100ヵ国以上の国で販売されたそうです。
紙からフィルムへ~素材の変化
付せんの素材は少し厚めで質感のある「紙」です。
しかしもっと薄くて丈夫なものを――とのニーズにこたえて、「フィルム」素材の付せんが登場しました。
フィルム付せんは紙に比べて透明感があり、見た目もスマートな印象です。
また薄さゆえに、紙よりコンパクトに持ち運びができます。
近年では、フィルム付せんを綴りごとにケースに入れ、そのケースを手帳等の片隅に貼って持ち運べるような商品も発売されています。
またフィルム付せんの特長は、先端部分がボロボロになりやすい紙に比べて、耐久性に優れているところでしょう。
しかしながら紙よりコストが高いため、紙ほど気軽に使えません。
用途によって、この使い分けをすることが、付せんを賢く使うコツかもしれませんね。
近年では、フィルム付せんもさらに進化して、粘着性を全面に持たせたものが発売されているそうです。
従来のフィルム付せんよりも透明度があり、地図の上にペタリと大きく貼ることで、そこにメモを書き込むことができます。
素材の変化が付せんの使い方を広げ、活躍の場を増やしているのですね。
四角からさまざまな形へ~用途の変化
シンプルな形の付せんは、まさに実用性重視のイメージです。
ワークショップなどでは、この大きくて四角い付せんが大活躍。
1枚の付せんにひとつのアイデアを書き、それをランダムに出し合って、貼りかえながらグループ分けし、アイデアをまとめあげていきます。
付せんに文字にして書くことで、視覚化するだけでなく、ペタペタと貼りかえて思考を整理できますから、まさになくてはならないアイテムだといえるでしょう。
このように実用第一で固い印象の付せんですが、最近ではビビッドカラーや柄モノなど、選ぶ楽しみを与えてくれるほどバリエーション豊かになりました。
もちろんサイズもさまざまで、柔らかなイメージの円形、マンガの吹き出し風、動物の形、ノートの角に沿わせて貼りポケットになるもの、果てにはテープのように自由な長さでカットできるものなど、自由な発想で形を変えています。
興味深いことに、女性をターゲットにしたエンディングノート『Never Ending Note~未来に残すエンディングノート ネバーエンディングノート』(集英社)のワークショップでは、付せんが大活躍しました。
自分の好きなものや行きたい場所、残したい写真等をノートに書き込んでいくのですが、かわいく、おしゃれなノートにしたいという女性の思いに、多種多様な付せんが使用され、そのニーズに見事にマッチしたのです。
「気軽にはがせるので、ノート作りがきれいにできてうれしい」「簡単に貼りかえができるから楽しい」等の感想が多数聞かれました。
可能性を秘めたアイテム・付せん
最後に、文具の枠を飛び越えて付せんの可能性を広げた、killigraph(キリグラフ)の瀬川卓司さんをご紹介します。
瀬川さんは、これまでエディトリアル・デザイナーとして雑誌、書籍を中心に手掛けてきましたが、近年、ポストイットを人型にカットした作品、「切りグラフ付箋」を展開中です。
瀬川さんによると、江戸から明治にかけて、立版古(たてばんこ)という、錦絵の版画を切って組み立てる遊びがあり、それを現代風にアレンジできないかと考え行き着いたのが、「付せんで人物のシルエットを切り絵にすること」だったそうで、切り絵だけではなく、ギフト用のパッケージや飾るためのジオラマ風のカード、ドールハウスなどの提案もしているそうです。
この春に出版された瀬川さんの著書『カワイイふせん活用BOOK』(玄光社)
「色紙のような付せんなど、これからの付せんの紙質・色の展開に期待しています。
今後も無限大にある付せんのクラフトアイデアを形にしてくれるところがあれば、すぐにでもやっていきたいですね」(瀬川さん)。
以上のように付せんの変遷をみたとき、これほどまでに活躍の場を広げた文具があっただろうかと思わずにはいられません。
付せんは生活に欠かせないものであり、着実に新たな用途を広げながら、使い方にとらわれない進化をしていく文具なのではないでしょうか。
羽車企画広報部編集
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集英社 『未来に残すエンディングノート』編集部
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キリグラフ http://killigraph.com/