こだわりの自主制作誌“ZINE(ジン)”の広がり
2013/05/17
「ZINE(ジン)」と呼ばれる自主制作の小冊子がクリエイターの間で話題になってきました。
今回は徐々に広がりつつあるこの紙文化について、そのルーツ、実際に制作しているクリエイターの方々、そしてZINE文化を発信するプロジェクトなど、その魅力を深く掘り下げてみようと思います。
2010年代に入って日本でじわじわと、しかし着実に広がりを見せる紙文化のニューフェイスに“ZINE(ジン)”の存在が挙げられます。
ZINEは自分の好きなテーマで作る数十ページ程度の小冊子の総称で、部数は多くが100部未満。
製法も原稿をコピーしてホッチキス留めするなど、手軽なものが主流です。
採算は度外視で、作り手は編集・執筆に関係のない本業を持つ人も少なくありません。
出版社や取次など既存の出版流通網を通さずに直接、書店や雑貨屋やカフェに置かれて読者の手に渡ります。
発祥の地とされるのは米国。
1980年代後半に西海岸のスケーターたちが始めたのだといいます。
肉筆の原稿に書き損じがあったり写真の向きが上下逆だったり、商業誌ではありえないミスも、ZINEでは“味”になる。
そんな手作りの面白さが作り手や読み手を呼んで、ムーブメントになったようです。
日本では2010年前後からZINEを集めたイベントが開かれたり、ZINEの解説本が出たり、大手書店がZINE制作に関するワークショップを開いたりと、ZINE文化がアート好きの視線を集めるようになりました。
同人誌やミニコミ誌との違い
ZINEの名前の由来はmagazine(雑誌)もしくはfanzine(同人誌)。
同人誌とは成り立ちや流通経路がよく似ていますが、同人誌はもともと文芸系が圧倒的に多く、1980年代ごろからアニメや漫画の二次創作が増えたのに比べて、ZINEは作り手が興味を持つさまざまな分野の情報発信が中心で、もう少し“雑誌ライク”といえそうです。
ミニコミ誌とも少し違います。
ミニコミ誌は1960年代に政治的な主義主張などを自由に発表する媒体として生まれ、のちにタウン誌やサークル誌など、その情報を必要とする少数の人々に向けて発行されるものが増えました。
読者ニーズを捉えるというより、自分が作りたいものを作りたいように作るZINEは、ミニコミ誌以上に趣味性が強いといえそうです。
また、ZINEは見た目にも作り手の色が反映されるので、単に情報を伝えるにとどまらず、冊子自体に芸術性や雑貨っぽさがあるのも特徴です。
「自己満足だからこそ唯一無二」
実際にZINEを作る人に、なぜ作るのか、どんなところに楽しみを見出しているのか、お話を伺いました。
イラストレーター/デザイナーの高橋きえさんは、友人との自主的なクラブ活動「おしゃれをして映画を観に行く倶楽部」のエッセイをZINEの形にしました。
仕事で衣装やアクセサリーのデザインも手がける高橋さんのZINEは高橋さんが選んだピアス付き。
好きな映画や洋服にまつわる冊子に好きなアクセサリーを付けて、高橋さんらしさをそのまま伝えるZINEになりました。
高橋さんによればZINEとは「仕事のためでもなく、誰かのためではなく、純粋に『好き!』『楽しい!』を詰め込める場所。
自己満足だからこそ、どのZINEも唯一無二ですよね。
みんなの心の中にある熱い気持ちをのぞけるなんて、とても魅力的だと思います」。
高橋さんは現在もZINEを製作中。
今度は作品集になるような、今までのテキスタイル・イラストをコラージュ・ペーパーにしたZINEを予定しているといいます。
「好きなことを好きなだけ表現できる」
イラストレーターのChaiさんは、旅にまつわるZINEを制作。
絵と文章を組み合わせたイラスト・エッセイの形をとっています。
仕事で文具雑貨店のフリーペーパーにイラストを描いたり、雑誌にイラストMAPを描いているChaiさんにとっては得意のスタイルです。
Chaiさんが感じているZINEの魅力は「自分が編集長として、紙の上で好きなことを好きなだけ表現できることだと思います。
一枚の紙だけでは表現しきれないことを、ZINEなら、その制限を軽々と超えるような可能性を持っているんですよね」。
日本の旅をテーマにしたZINEを作ったChaiさんは、次はローマ・バルセロナの旅日記をZINEにしようと計画中。
「参加者が1ページずつ担当して全員で1冊のZINEを仕上げるようなワークショップをやってみたいですね」と活動意欲は高まるばかりです。
「ZINEを誰でも気軽に!」MOUNT ZINE
ここで、最近、クリエイターの間で注目されているプロジェクト「MOUNT ZINE(マウントジン)」をご紹介しましょう。
これはFFLLAATT(フラットフラット)が運営するプロジェクトで、様々なジャンルのZINEを広く募集し、イベントとショップとウェブで展示・販売をしています。
クリエイターがZINEに興味を持って制作しても、発表の場所が少ないという現状に対して 「誰でも気軽にZINEの展示・販売ができる場」を提供しようと考えたのがこのプロジェクトの始まりなのだそう。
いつでも手にとって購入ができるショップも2012年5月に東京都目黒区にオープンし、ZINEの魅力を発信しています。
MOUNT ZINEのショップにはZINEが所狭しと並び、閲覧と購入ができる
定期的にイベントやワークショップを開催しており、2013年5月には世田谷ものづくり学校にて「MOUNT ZINE 5」を開催。
「ZINEを通じて、お客さんと作家が語り合える交流の場を作りたい」と代表の櫻井さんはいいます。
これからの取り組みに期待したいです。
今後は企業にも広がり
このようにZINEは国内イベントも回を重ねるようになり、認知度も少しずつ上がってきているようです。
書店が店舗やオンラインで販売したり、イベントやワークショップを主催したり、企業がZINEを発行する人に公式サイトでのエッセイを依頼したりと、企業がZINEに積極的に関わる事例も増えています。
ファッション・ブランドやカフェを中心に、企業発のZINEもちらほら出てきました。
今後、マーケティングの手段として注目されるようになれば、ZINEを自社で発行する企業は一気に増えそうです。
ZINEはイベントなどと結びつきやすく、単に冊子の売買に終わらないで、発信する人と受け取る人のコミュニケーションが生まれやすいメディアです。
今後ますます広がっていくであろうZINEの世界に、作り手として、または読み手として、飛び込んでみるのはいかがでしょうか。
羽車企画広報部編集
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ご協力いただいた企業、方々:
FFLLAATT(MOUNT ZINE) http://mountzine.com/
高橋きえさん http://kie.pinoko.jp/
Chaiさん http://chaimemo.jimdo.com/