旅先からの手紙~真心を贈る楽しみ~
2011/09/06
旅先で必ずと言っていいほど販売されているご当地の絵はがき。観光地を象徴する写真入りはがきをはじめ、かわいらしいデザインカードなど種類も様々。また、旅先から手作りの絵手紙で気持ちを伝えることも素敵な演出です。 旅先からの手紙は書くほうも受け取るほうも「旅」という非日常を切り取る特別な存在。今回は「旅先からの手紙」について取り上げます。
日本中が熱狂した絵はがきブーム
この夏、各地へ旅行に行かれた方も多いのではないでしょうか。
旅先の土産物店などでよく目にするものと言えば、観光絵はがきです。
その土地ならではの美しい風景の写真や水彩画風のもの、押し花はがきまで種類も豊富ですね。
一枚一枚をじっくり見ていると、誰かに出す宛てが無くてもつい欲しくなってしまいます。
絵はがきの歴史はざっと100年前に遡ります。
明治33年に外国人向けの観光絵はがきが登場。
これが日本初の私製絵はがきとなりました。
当時はまだカメラが一般に普及していなかったこともあり、絵はがきは報道写真としての役割も担っていました。
また戦勝ムードを盛り上げる道具としても利用され、その人気は過熱する一方だったようです。
1904年の日露戦争の折には、従軍記者の戦地撮影写真をもとに制作された「日露戦争記念官製絵はがき」が発売され、奪い合いでなんと怪我人や亡くなる人まで出る騒ぎでした。
一方で観賞用の絵はがきも好まれ、木の皮を薄く切り取り、絵付けを施したもの、金箔を使用したものまで登場したとか。
当時、夏目漱石や尾崎紅葉、泉鏡花などの一流文化人もこぞって絵はがきを蒐集していたようで、まさに最先端のトレンドだったのです。
絵手紙の奥深い魅力
旅先の風景をスケッチして言葉を添えて送る・・旅先からの絵手紙も多くの愛好者がいます。
古いものでは、坂本竜馬が妻お竜との新婚旅行先である霧島での出来事を、絵入りで姉に送ったものが残されています。
登山の様子をイラスト入りで紙いっぱいに書いた手紙は、高揚した気持ちで書いたことが感じられ思わず微笑んでしまいます。
絵手紙には、時代を超えて読む人に感動を与える不思議な力があるのかもしれません。
今回、日本絵手紙協会の担当者の方にお話を伺いました。
「日本絵手紙協会は、絵手紙の普及活動を目的としています。
現在月刊誌の購読者数は約2万人、会員組織としては3000人が活動しています。
会員同士で絵手紙交換を楽しんだり、年1回の全国大会を開催したりしています。
絵手紙は自分で好きなように絵と文章を書くだけなので、誰でも楽しめるところが魅力だと思います。
今回の震災でも、沢山の被災者の方が絵手紙で励まされているんですよ。」
絵手紙に必要なのは、絵とシンプルな文章だけ。
だからこそごまかしのない素直な気持ちが表現でき、受け取った人はその真心に触れ、勇気を貰えるのかもしれません。
戦時中も、多くの絵手紙が海を越えました。
前田美千雄氏という若き日本画家の追悼画集「戦地から妻への絵手紙」という本があります。
前田氏は大戦中、戦地から約500通もの絵手紙を日本にいる妻に書き送っていました。
赴任先の風土、人々の暮らし、自分の心象風景。
常に明るくおどけてみせながらも、時に奥様を想うその言葉に胸が詰まります。
一方で奥様自身の絵手紙も前田氏とのやり取りを通じて透明感を増していきます。
絵手紙が戦時中、どれだけ人々の絆となったのかを感じることの出来る1冊です。
なお、前田氏を始め、戦争で亡くなった画家や画学生たちの絵手紙が長野県上田市の「無言館」に多数収蔵されているそうです。
人々の旅情もビジネスチャンス!?
旅先でふと何かに心動かされる――。
そんな人々の旅情に着目したビジネスもあります。
例えば、日本郵便の「ご当地フォルムカード」。
2009年から始まっているこちらのサービスは、各都道府県でご当地オリジナルデザインの絵はがきを販売するというものです。
北海道のキタキツネ、広島のモダン焼き、岐阜の鵜飼など、バリエーションも様々。
しかも各地の郵便局でしか手に入らないということで密かなファンも多いとか。
ちなみに人気第一位は「沖縄県」。
琉球舞踊の可愛らしい踊り子さんが描かれている一枚です。
画像上:東京・神奈川のご当地フォルムカード
JTB法人東京が毎年実施している「旅レターキャンペーン」は、旅先での手紙・はがき書きを応援する企画として人気です。
2010年のキャンペーンでは、大原観光保勝会(京都市)と共同で、オリジナル絵はがきや切手をセットにした「旅のお便りセット」が販売されました。
また、地域としても市内各所にはがき・手紙が書けるスペースを設けこの企画を盛り上げたそうです。
まさに企業と地元が一体になった旅行キャンペーンの成功事例と言えるでしょう。
旅先からの手紙でもっと旅を楽しむ
ポストを開けた時、中に手紙があると早く封を切りたくなってしまいます。
これが、親しい方の旅先からのものであればなおさら楽しみなものです。
美しい観光絵はがきにその土地にちなんだ切手が貼ってあったりすると、相手の心遣いが特別嬉しく心が温まります。
インターネットが普及し、携帯メールも気軽に送ることのできる時代だからこそ、このような手間をかけたコミュニケーションが一層輝くのではないでしょうか。
アクティブで忙しい旅行も楽しいけれど、時にはゆったりとくつろいだ時を過ごしながら、旅先からの手紙を書いてみるのも良いですね。
もしかしたらそれは最も贅沢な時間の過ごし方なのかも知れません。
羽車企画広報部編集
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参考資料
・絵はがき物語 秋山公道/著 紀伊国屋書店
・心を贈る絵手紙の本 小池邦夫/著 祥伝社
・月刊ETEGAMI 8月号/日本絵手紙協会
・前田美千雄追悼画文集 「戦場から妻への絵手紙」/講談社