変わりゆく鉄道の切符~歴史や改札鋏との関係性~
2022/05/27
鉄道を利用する際に、必要となるものが「切符」です。しかし、近頃はデジタル化によって切符を購入する人も少なくなりました。なかには、歴史あるものが姿を消していくことに、寂しさを感じる人もいるでしょう。今回は時代とともに変化する切符の姿や、関わりの深い改札鋏(かいさつばさみ)について触れていきます。
日本の地を初めて蒸気機関車が走ったのは、明治5年9月12日。江戸の文化が抜けきらぬ明治初期に、新橋~横浜間を駆け抜けました。そして、鉄道開業とともに切符も誕生します。
当時の切符は、「エドモンソン式」と呼ばれるA型券でした。切符のサイズを考案した、イギリス人の鉄道員「トーマス・エドモンソン」が名前の由来です。切符の表には漢字で書かれた駅名が印刷され、裏側には英語やフランス語・ドイツ語が並んでいました。エドモンソン式のA型券は、今も特急・急行券や長距離切符として使われています。
画像:エドモンソン式A型券の準急行券
そして切符と同様に、当時の鉄道運営に欠かせないものが改札鋏です。パチンと音をたて切符が切られる光景を、見たことがある人もいるのではないでしょうか。当時は、自動改札機がない時代です。駅員が改札鋏を使い、切り込みを入れ、一枚ずつ切符が有効であるかを確認していました。
画像:改札鋏と鋏こんの種類によって異なる穴(こん形)が開いた切符
改札鋏の切り口は「鋏こん(きょうこん)」と呼ばれ、駅によって形が異なります。例えば、首都圏用に使われていた旧国鉄改札鋏の鋏こんは46種類もありました。
出典:関東交通印刷
http://www.ticket-print.co.jp/punch.html
当時の駅員は全ての駅名と鋏こんを覚え、切符の不正使用を防いでいました。
現在も、改札鋏は一部のローカル鉄道に置かれています。全国に存在する鋏こんは140種類ほど。もし、改札鋏によって切られた切符を手にする機会があれば、どのような切り口になっているのか注目してみてください。
その後、鉄道運営の初期から使われていた切符と改札鋏は、時代とともに姿を変えていきます。とくに切符は「国産蒸気機関車の黄金期」である大正時代に入ると、表記が右書きから左書きへと変わりました。漢数字で表記されていた金額が、算用数字に整えられたのもこの時代です。
昭和になると、これまでサイズ変更を繰り返していたエドモンソン式のA型券が、縦3.0cm×横5.7cmに落ち着きます。そして、縦2.5cm×横5.75cmの「B型券」も誕生しました。B型券は、A型券が117枚作れる紙から135枚も作れたため、資源が不足した戦時中はたいへん重宝されたそうです。
現代でも近距離切符や入場券として使われており、私たちに1番馴染みの深い切符といえるでしょう。
画像:秩父鉄道のB型券
平成は切符にとって、今までにないほど大きな変化が訪れます。平成13年11月、東京近郊では「Suica」の導入が始まりました。A型券やB型券のような紙製の切符ではなく、プラスチック製のICカードです。
Suicaの導入により、切符を購入する手間や改札機を通る際に起きていた渋滞も解消されます。さらに平成18年1月には「モバイルSuica」も登場し、便利になってゆく反面、切符の利用者は次第に減少していきました。
画像:Suicaをきっかけに、その後もさまざまなICカードが誕生します
出典:JR東日本
https://www.jreast.co.jp/suica/whats/merit.html
2021年の、首都圏(※)のICカード利用率は79.1%、切符やその他は7.5%でした。しかし、ICカードの普及率が低い地域や年配の方には、切符の需要があることも確かです。「観光列車に乗る」「旅先で鉄道を利用した記念に」と、特別な理由で購入する人も少なくありません。切符は、思い出を形に残す新たな方法としても使われているのです。
もし切符に出合う機会があれば、質感や大きさを自身の指で確かめてみてください。そして、初めて蒸気機関車の汽笛が鳴り、歓喜に沸く明治の人々を想像しながら、鉄道の旅を楽しむのもよいかもしれません。
(※)首都圏:東京・千葉・埼玉・神奈川
文・鶴田有紀
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参考文献:
『日本鉄道事始め』髙橋団吉 NHK「日本に蒸気機関車が走った日」制作班 編著
『鉄道きっぷ大図鑑 小さな紙から始まる魅惑の世界』鉄道きっぷ研究会・編
鉄道アプリについての調査|株式会社スパコロ
https://service.supcolo.jp//train/
改札パンチ|関東交通印刷
http://www.ticket-print.co.jp/punch.html