照明として、そして祈りを込めて。提灯の歴史と想い
2017/03/03
お祭りやお盆の飾り、居酒屋にいたるまで、日本の文化に欠かせないアイテム、提灯。
その背景についてご紹介します。
画像上:祝いの火は崇敬の念のあかし
キャンプファイヤーの前で無心になったり、キャンドルの炎に目が釘付けになったり。
火に不思議と心を惹きつけるものを感じるのはなぜでしょうか。
炊事やお風呂など人間が生きる上で欠かせない“熱”の源でもあり、あっという間にあらゆるものを燃やしてしまう恐ろしさも併せ持つ。
古代の人間はそんな火に崇敬の念を感じ、神話や習慣などを生み出してきました。
例えば、古代には将軍が戦争で勝利を収めると、大きな火で祝うという習慣があったと言います。
この習わしが、祝いや特別な場面で火を用いる由縁。
誕生日ケーキにキャンドルを灯すのも、そこから生まれたしきたりのひとつです。
日本では、たくさんの提灯を掲げながらねぶり歩く「秋田かんとう祭」に代表されるように、夏祭に提灯が欠かせません。
真夏の病魔や邪気を払うためのあかりとして提灯が用いられるのです。
またお盆には「盆提灯」と呼ばれる提灯を飾ります。
これには、故人が迷わないように、そして神様が来るための道を明るくしてお迎えできるように、という意味が込められているといいます。
画像上:軽くて持ち運びしやすい和紙の灯り
油をつかって火を灯す方法は古墳時代には使われていたと言いますが、提灯の原型が生まれたのは、室町時代のこと。
そのころ一般的だったのは、瓦職人が土でつくる瓦灯(かとう)と呼ばれる照明器具。
丈夫な反面で、風防のレベルが低いことと、持ち運びしにくい重さ、そして油を用いるために移動しにくいことが難点でした。
江戸時代にはいり、ろうそくが普及したことで考えられたのが提灯です。
細い竹を筒の形に組んで和紙でぐるりと囲い、上下が空いているので内側のろうそくは燃え続けるという仕組み。
当時に存在した素材のなかで、和紙は最も反射率が高い素材のひとつでした。
和紙で覆われた提灯は、和紙の部分全部が発光面になるため、とても明るく感じるのです。
“闇討ち”という言葉が生まれるほど、街灯が少なく真っ暗闇だと言われた江戸の夜。
さっと折りたたんで持ち運べる便利さもあり、提灯は一気に普及していきます。
ただし、紙の覆いは破れやすいのが難点。
そこで登場するのが、提灯の張り替え専門の職人。
壊れたらその場でぱぱっと張り替えてくれるのです。
客の注文で紋や名前を描くことも多く、器用な人でないと務まらない職業だったようです。
提灯によく使われたのが「江戸文字」と呼ばれる書体。
江戸文字とは、江戸時代に使用されていた図案文字の総称で、相撲、歌舞伎、寄席、提灯や千社札など用途によって、デザインが異なります。
その中でも提灯文字は、遠くから見てもわかりやすいことを意識して、空白を生かした文字なのが特徴的です。
提灯づくりは今もなお健在。
江戸提灯以外にも「八女提灯(福岡県)」「小田原提灯(神奈川県)」「岐阜提灯(岐阜県)」「讃岐提灯(香川県)」など、各地でつくり続けられています。
電球を使うタイプが多いなか、ロウソクで火を灯す伝統的な提灯や、好みの文字を江戸文字で描きいれてくれる職人もいます。
コンパクトに折り畳めるため、外国の方への手土産に名前を入れて差し上げると、とても喜ばれるとか。
粋なギフトにいかがでしょうか。
文・峰典子
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参考:
『お江戸の意外な商売事情―リサイクル業からファストフードまで 』PHP文庫
『火は友だち?―自然の火と科学の火、火と人間の歴史』同朋舎出版