涼を呼ぶ道具、うちわ
2016/07/11
日本には涼を和らげ、楽しむための知恵があります。その一つがうちわ。
やわらかい風を浴びると、エアコンとは違う心地よさを感じるものです。その歴史と魅力に迫ります。
古墳時代の遺跡からは、うちわとよく似た形状のものが発見されています。
例えば、顔を隠すことで権威の象徴として用いられていた「さしば」。
中国の僧侶が塵や蠅を払ったという「塵尾(しゅび)」。
私たちがよく知るうちわに近いものが「蒲葵扇(びろうせん)」で、沖縄や九州に自生するヤシ科の植物“びろう”の葉を使ったもので、人や火を仰ぐために使用するものだったようです。
江戸時代に入ると、炊事や暑気払い、虫よけなど、日常に欠かせない道具として庶民にも受け入れらていきます。
多色木版技術が生まれた江戸後期以降は、絵師のキャンバスへと進化を遂げることに。
その題材は、役者絵から美人画、風景画、花鳥画までさまざま。
浮世絵は高いけれど、うちわなら手頃な値段で手にはいると、ファッションアイテムやインテリアとしても人気を博したようです。
竹の組み方や、和紙の違い。
形も角ばったものや丸いもの。
各地で趣向を凝らしたうちわが出来上がっていきます。
日本三大うちわと呼ばれるのが、香川県丸亀市の丸亀うちわ、京都府京都市の京うちわ、千葉県南房総市、館山市の房州うちわとされています。
それらに関しては、取り上げられることが多いこともあり、割愛させていただくとして、今回は、紙の使い方に特徴のある二つのうちわを紹介したいと思います。
江戸時代から提灯つくりが盛んだった岐阜県は、灯りを和紙に透かす提灯の発想を応用し、「水うちわ」というものを生み出しました。
薄く破れやすい雁皮紙(がんぴし)に天然のニスを塗ることで強度を高めます。
すると、光の乱反射が抑えられて、まるで水まんじゅうのような透明感が現れます。
濡れたうちわを扇ぎ、水しぶきを飛ばして楽しむという、風流な遊びもできるとか。
岡山県の武士が江戸時代に考案したという珍しいうちわが撫川(なつかわ )うちわ。
一見普通のうちわに見えるのですが、光にかざすと、鮮やかな絵柄や文字が浮き上がります。
これは「歌継ぎ」と「透かし」の2つの技法によるもの。
一筆書きで俳句を書き、それに合った花鳥風月の絵柄を切り抜いて表現していきます。
うちわは「団扇」という漢字で広く知られますが、古くは「内和」とも書き、その 丸い形状から、家内安全を表す道具だったそうです。
結婚や引越しなど、節目の相 手へのギフトに、今年の夏は粋なうちわを選んでみてはいかがでしょうか。
文・峰典子
画像について:
水が命だともいわれる、和紙づくり。
自然が豊かな美濃(岐阜県)で育まれた品質の高い和紙は、1300年もの長い歴史を誇る。
漂白剤を使ってごまかすことなく、繊維についた塵をひとつひとつ手作業で取り除くことで、まるでガラスのように薄く透明感のある和紙、そして水うちわが出来上がる。
問い合わせ:美濃手すき和紙専門店「カミノシゴト」http://kaminoshigoto.net