日本文化を表すラッピング のし紙に込められた思い(前編)
2021/02/22
百貨店などで贈答品を購入する際に聞かれて悩むのが、のし紙。
フォーマルな場には必要だと理解していても、その詳しい意味については知らない人も多いはず。
のし紙の持つ深い歴史を知ることで、形式だけでない贈り物の気持ちを表していきましょう。
画像上:(Photo AC)
熨斗(のし)とは、あらたまった贈答品に添えられる飾りのこと。
贈答品の前面に掛けるのし紙自体が“熨斗”だと思われがちですが、実はのし紙の右上にある飾りを指しています。
熨斗の成り立ちを探ると、8世紀まで遡らなくてはなりません。そもそも熨斗とは伸ばして平らにするという意味の「伸し」に由来しており、鮑を干して平らに伸ばしたものを熨斗鮑と呼びました。
鮑は古くから長寿をもたらす高級食材として重宝され、縁起物として三重県鳥羽の国崎産熨斗鮑を伊勢神宮に献上したと日本書紀に記されているほどです。
室町時代になると、武家社会で確立された儀礼作法の中で熨斗鮑が使われるようになります。
室町時代とは茶道に代表されるように、相手に対する礼儀や思いやりを型という様式美にまで昇華させた時代。そこに和紙が量産されるようにもなり、贈り物を和紙で包む作法が生まれました。和紙は布とは異なり、一度折ると折り目がつくことから、穢れの無い真新しい物であることの証明としても適していたのです。
しかしこの時代には、まだ熨斗鮑自体が贈り物であり、贈答品にプラスして添える習慣はありませんでした。
画像上:(Photo AC)
時代は流れ、江戸時代末期にもなれば贈答品へ熨斗鮑をつける習慣が根付きます。
しかし高価な鮑を誰もが手に入れることは難しいことから、折熨斗が登場し始めました。折熨斗とは、長六角形に折られた紙の真ん中に黄色い一片の紙が入ったものを言います。この黄色い紙が熨斗鮑を模しているのです。そして折熨斗こそが、現代の私たちが知っているのし紙の右上に印刷されて“熨斗”と呼んでいる物の正体です。
ここにきてやっと私たちにも馴染みのある姿になりました。
経済活動が盛んになる明治時代以降は、折熨斗は意匠化され市販されるになりますが、自ら上質の和紙で贈答品を包み、折熨斗を添え水引で結んで相手に直接手渡しするのが一般的でした。さらに生活スタイルの変化と印刷技術の発展によって簡略化はより進み、熨斗と水引が紙に印刷されたのし紙が誕生します。
のし紙の登場によって、特別な包装技術を知っていなくても誰もが気軽に贈り物を送れるようになりました。そして今では、のし紙を自分で準備せずとも贈答品を購入した店で用意されていることが多く、それを利用する場合がほとんどです。
画像上:(Photo AC)
このように干して乾かした熨斗鮑が、全てが印刷されたのし紙へと私たちの生活に合わせて変化を遂げてきました。
しかし熨斗鮑の存在を知らなくても、そこに込められた意味は私たちの中に脈々と受け継がれていること感じます。生活スタイルは多様化し冠婚葬祭も簡素化の傾向にありますが、一方で大切な人への贈り物をする機会が必ずしも減っているわけではありません。少しあらたまって喜びや感謝の気持ちをのし紙に託して贈り物をする文化は、消えてなくなることはないでしょう。
後半は、のし紙のデザインについての説明と新しいのし紙の形をご紹介します。
文・舟橋朋子
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参考文献:
『日本の折形』誠文堂新光社
『和のこころを伝える 贈りものの包み方 伝統と、新しいこころみ』誠文堂新光社
『熨斗袋』精興社
『一生使えるお作法図鑑』PHP研究所
日本文化を表すラッピング のし紙に込められた思い(後編)