大空を自由に舞う凧。日本文化として花開くまでの歴史や文化を辿る
2024/01/05
ふわりと風に乗り、大空を自由に飛びまわる凧(たこ)は、昔から娯楽やお正月、特定の地域で開催される行事に欠かせない物として作られてきました。一括りに凧と言っても、地域によって色や形も異なり、さまざまな意味や思いが込められています。今回は、そんな奥深い凧の世界を覗いてみましょう。
凧の歴史は古く、西洋では紀元前400年頃、東洋では紀元前200年頃には存在したという記録が残されているそうです。日本には中国から伝わり、平安時代の書物『和名類聚抄(わみょうるいじゅしょう)』に、凧を指す言葉である「紙老鴟(しろうし)」や「紙鳶(しえん)」が登場 しています。そして中国以外に、日本に凧を伝えたのがインドネシアの人々です。長崎の出島にポルトガルの船が訪れた際に、乗船していたインドネシア人が「ハタ」という名前の凧を伝えました。
その後、西日本を中心に広がり貴族たちの娯楽として流行します。しかし当時は、「たこ」ではなく「いか」や「いかのぼり」と呼ばれていた そうです。理由としては、四角い形をしており下の方に細長い紙を付けていたため、その姿が「いか」に似ていたことから名付けられました。
いかのぼりは江戸の町にも伝わり大流行しますが、人々が熱中しすぎたため度々喧嘩が起こるようになり、1656年には「いかのぼり禁止令」 が出されます。しかし江戸の人々は、禁止令が出された程度では「いかのぼり」をやめませんでした。「いか」がだめなら「たこ」にしようとなり、「たこのぼり」として楽しむ人が現れたのです。この「たこのぼり」が、やがて「凧あげ」と呼ばれるようになります。
古い歴史をもつ凧ですが、どのような材料からできているのでしょうか。続いては、凧の材料に注目してみましょう。凧の材料は大きく分けて、「和紙」「竹ひご」「たこ糸」の3つです。そのなかでも和紙は、糸を和紙で挟んだ通常より耐久性に優れたもの から、手漉きの美濃和紙 や土佐和紙 など、作り手や地域によって異なる種類の和紙が使われています。
凧の骨組みとなる「竹ひご」は、真竹(まだけ)という種類の竹を半年以上乾燥させ、余分な油を抜くために炭火であぶった後に加工するそうです。こうした手間をかけることによって、風にあおられても折れにくい丈夫な竹ひごが完成します。
そして最後に、凧作りに欠かせない3つ目の材料である「たこ糸」は、耐久性だけでなく機能面に関しても重要な役割を担っています。例えば、たこ糸をわざと左右の骨組が反るように取り付けたり、凧のあがり具合を調節する糸目を付けたりするなど、さまざまな工夫が施されているのです。
中国やインドネシアの人々によって伝えられた「凧」。現在も日本各地で作られており、さまざまな絵柄や形をした凧が存在します。例えば、形に関していうと、正方形や長方形の「角だこ」、中部地域や日本海側が発祥とされている六角形の「六角だこ」、正方形の凧をずらし重ねた「八角だこ」、そして「人型」などがあります。
一方で絵柄は、うさぎや虎などといった生き物や、縁起物とされる龍や達磨(だるま)、武士の姿を模った凧などがあります。武士に関しては、武士の家の仕様人である「奴(やっこ)」が、両手を広げている姿を模った「奴凧(やっこだこ)」も有名です。やっこは凧だけでなく、お正月飾りのモチーフとして使われており、その存在を知っている人も多いのではないでしょうか。
中国やインドネシアの人々から伝わり、日本を代表する文化の1つとして花開いた「凧」。近頃は凧あげをしている人も少なく、見る機会も減ってしまいました。しかし地域によっては、伝統工芸品として扱ったり行事として凧あげをしたりと、日本の文化を絶やさないように大切に守り続けています。
少しでも興味が湧いたのであれば、ぜひとも凧あげを体験してみてください。お正月でも良いですし、日本各地で行われている凧あげ大会へ参加するという方法もあります。静岡県や長崎県、青森県など、日本のさまざまな場所で開催されているため、気になる方は調べてみてください。自身の手で和紙の質感を確かめ、大空を自由に泳ぐ凧を眺めてみると、当時の人々が夢中になった意味が少しだけ分かるかもしれません。
文・鶴田有紀
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〈参考文献〉
・『THE TOYMUSEUM 羽子板・凧・独楽』|京都書院
・むかしからつたわる遊び たこを楽しむ|WILLこども知育研究所/編・著|金の星社
https://www.kinnohoshi.co.jp/search/info.php?isbn=9784323051420
・土佐凧(土佐の手作り工芸品)|高知市
https://www.city.kochi.kochi.jp/site/tosa-kogei/tosanotezukuri-tosadako.html