命名書のトレンド 自分用から贈り物へと変わりつつある命名書(後編)
2021/09/15
お七夜の際に使われる命名書。正式には横長の奉書紙に名前や生年月日を記しますが、現在では略式の命名書を使う方も増えています。さっそく命名書のトレンドについてみていきましょう。
略式の命名書に規定サイズはない。神棚や仏壇のほか、ベビーベッドのそばに飾るケースも増えている。
古くから日本では、赤ちゃんが生まれるとお祝いをしていました。平安時代から今もなお行われている儀礼が「お七夜」です。子どもの誕生を祝い、息災を願うお七夜。その中で行なわれるのが「命名の儀」です。命名の儀とはその名の通り、子どもにつけた名前をお披露目する儀式。出生後の新生児の死亡率は非常に高く、生まれてから7日経っても生き続けていることが、1つの節目としてとらえられていました。そのため、このタイミングで名前を付け、周りにその存在を認めてもらっていたのです。このとき、名前を書く紙を「命名書」といいます。
正式な命名書は奉書紙と呼ばれる和紙を使用し、書き終えたものは神棚や仏壇に供えます。しかし、最近では神棚や仏壇がない家庭も多いことから、床の間やベビーベッドのそばに飾ってもよいとされています。そのため、略式の命名書を選ぶ人も少なくありません。略式の命名書のサイズは特別決められていませんが、色紙程度のサイズが多いです。
奉書紙に濃いめの墨で名前を書くのが本来の習わしだったが、現在は多彩な種類がある。
飾りがあしらわれているなど、かわいらしいデザインのものも増えています。無料でダウンロードできるフォーマットを配布しているサイトもあるため、手軽に命名書を書いてみたい方は探してみるといいかもしれません。その際、コピー用紙ではなく厚みのある色紙などを使ってみるのもおすすめです。家庭用のコピー機でも使用できる和紙なども販売されているため、金のあしらいなど、飾り模様が入っている和紙を選ぶと、見栄えする命名書を作ることができるでしょう。
本来、命名書は子どもに名前を付けた父親や母親が書くものですが、最近では飾ることを前提として、デザイン性の高いものをお店で購入する方も増えています。名前にちなんだポエムがあしらわれているものや生まれたときの体重や身長が書かれているもの、お子さんの写真を入れることができるものなど、さまざまな工夫を凝らした命名書が登場しています。
画像上:「つむぐ言葉」の命名書。奉書紙のなかでも1500年以上の歴史を誇る越前和紙を使用している。
そんななか、人気を集めているのが体験型の命名書です。福井県に本社がある「つむぐ言葉」では、足形・手形が押せる命名書を販売しています。奉書紙のなかでもとくに歴史がある越前和紙にお子さんの名前を印字。裏用紙には鮮やかな友禅和紙を敷いています。使用している和紙は福井県福井市の劍神社(つるぎじんじゃ)でご祈祷しています。
命名書を注文すると専用のスタンプ台とインクもセットで届き、空いたスペースに手形や足形を押せるようになっています。命名書は3枚セットになっているため、失敗しても安心です。
自分のお子さん用に購入される方が大半ということですが、出産祝いとして贈る方も増えているとのこと。また、里帰り出産をしている産婦の実家に父親がプレゼントとして贈るケースもあるそうです。単品購入後に追加購入する場合もあり、自分たちのほか、両親や義両親へプレゼントするなどかつての方式にこだわらず、たくさんの人が楽しめるものとして親しまれています。昨今の社会情勢などでおうち時間を充実させようとする現代において、命名書の形も変わってきているのかもしれません。
画像上:Anlietteのベビーポスター。大きなサイズのベビーポスターはインパクトがある。
また、ベビー用品を扱う「Anliette(アンリレット)」では、ポスタータイプの命名書を販売しています。お子さんの名前や生年月日、命名した父親や母親の名前が記載されている点は日本で古くから知られる命名書と同じですが、生まれた時間や出生時の体重などが記載されている点は現代風。また、英語のデザインのためインテリアとも調和が取りやすく、長く飾ることができるデザイン性の高さが魅力です。
デザインパターンは複数あり、モノトーンタイプや水彩のような柔らかなデザイン、足形が押せるタイプも販売されています。こちらも自分用に買うだけでなく、出産祝いなど贈り物として注文する方が多いそうです。出生時だけでなく、誕生プレゼントや結婚祝いなど、節目のプレゼントとしても重宝するでしょう。
赤ちゃんの誕生を祝うために始まった命名の儀。かつては出産後の死亡率が高かったことから、赤ちゃんの無事と末永い幸せを願って祝宴が開かれていました。死亡率が格段に下がった現代においても、出産は命にかかわることもあり、赤ちゃんの誕生が奇跡ということは変わりありません。赤ちゃんがこの先ずっと使っていく名前をお披露目する命名書は、こだわりを持って選びたいですね。
文・滝沢紘子
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取材協力:
つむぐ言葉
https://tsumugukotoba.com/
Anliette
https://anliette.jp/
参考文献:
『<新訂版>子どもに伝えたい年中行事・記念日』萌文書林編集部編
命名書の歴史 源氏物語の時代から続くお七夜と命名書(前編)