産業革命時代に重宝されたレターヘッド~デザインや歴史を辿る~
2025/02/21
企業や組織の特徴が表われ、さまざまなデザインが存在する「レターヘッド」。使用している企業や公的機関も多いため、見かけたことのある人もいるのではないでしょうか。今回は、レターヘッドのデザインや素材などに注目し、これまでの歴史を紐解いていきます。
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「レターヘッド」とは、企業や公的機関などが利用する書簡用紙(社用便箋)、あるいは書簡用紙の上部に施されている「組織名称」や「シンボルマーク」「住所」などといった印刷部分のことです。一般的にレターヘッドは、封筒と1枚目のシートのみに会社名やロゴなどが施されています。そしてそれ以降は、1枚目と同じ素材の無地やシンプルなデザインのシートを使うことがマナーとされているのです。
また、似たようなアイテムとして「ビル(Bill)ヘッド」があります。「Letter」ではなく請求書を指す「Bill」が頭についているため、ビルヘッドは「頭書のついた請求書」を意味します。サイズもレターヘッドより小さく、商品の明細や価格などが記入できるように罫線(けいせん)が印刷されたものが主流でした。しかし時が経つにつれ、ビルヘッドはレターヘッドに代用されるようになり、その役割を終えていきました。
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画像:自動車関連企業のビルヘッド 商品の明細や価格などが記入できるように罫線付のものが主流
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画像:レターヘッド(左2点)とビルヘッド(右上下2点)ビルヘッドはレターヘッドよりも小さいものが多かった
そんなレターヘッドやビルヘッドですが、主流となったのは産業革命時代です。シンプルなものから華美なものまで、さまざまな種類のものが作られていましたが、この頃の企業では手紙や請求書に精巧な彫刻が施されたレターヘッドを使うことが一般的でした。デザインも、自社のビジネスや製品に関するものが多かったようです。例えば家具メーカーであれば家のイラストを、馬車の製造業者は馬車のイラストを入れていました。
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画像:馬車製造業者のレターヘッド
引用元:Vintage Letterheads and Billheads|Dunedin
これは、手紙や書類など連絡ツールとしての役割を果たしながら、自社の認知度を高めたり、会社の格を伝えるため使われていたことが、分かるエピソードと言えるでしょう。このようにレターヘッドは、連絡ツールの域を超え多くの人々から注目される存在になりました。しかし、注目を集め重宝された時代にも次第に陰りが見え始めます。第一次世界大戦後に、製作コストの問題と職人の減少を理由に衰退の道を辿っていくのです。その流れとともに、デザインもよりシンプルなものへと変わっていきました。
華々しく活躍した時代を経て、現代に受け継がれているレターヘッド。近年はそのデザイン性の高さから、広告やレターヘッドを作成した企業が拠点とする地域の歴史、グラフィックデザインなどに興味をもつ人からも注目されており、コレクションの対象になっています。確かに、企業の個性やこだわりが垣間見えるため、ついつい集めたくなる気持ちも分かります。とくに「歴史」という点では、レターヘッドに建物を描く際は周囲の街並みまで含まれていることが多く、当時の様子を知るカギにもなっているのです。
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画像:家具製造業者のレターヘッド
引用元 :Vintage Letterheads and Billheads|Dunedin
レターヘッドの歴史について理解したところで、続いては素材やデザインにスポットを当てていきましょう。使われている紙素材は主に、「コットンペーパー」と呼ばれるものが多く、綿のパルプを原材料に使っており、柔らかな質感と風合いの良さが特徴です。欧米では昔からアート用や契約書の紙として採用され、万年筆で直接サインしやすい点も魅力のひとつだと言われています。製造元によって綿パルプの配合率や色などは異なるため、もしオリジナルのレターヘッドを作る場合は、理想に近いものを探してみてください。
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画像:羽車制作事例
そして、第一次世界大戦後にシンプルなデザインへと姿を変えたレターヘッドですが、近年はさまざまな技術の発展により、再び幅広いデザインを見かけることが増えています。例えば企業のロゴ以外にも、イラストを入れたり色を取り入れたりするなど、個性的で自由度の高いデザインを選択することも多くなってきました。
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その他にも、上の画像のように紙の縁をカラーリングする「ボーダード加工」を施す場合、上品な印象にしたいのであれば「金」をあしらったり、ブランドや企業のコーポレートカラーを選択すると、レターヘッドそのものから企業らしさを表現できます。
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画像:羽車制作事例
このように色は、それぞれに「明るい」や「力強い」など、彷彿させるイメージがあります。そのため、長文で語らずとも色を活用するだけで、企業イメージを伝えることができるのです。例えば、ロゴマークをつやのあるゴールドの箔押しにすると、高級感がでて品のあるレターヘッドに仕上がります。すると企業も、レターヘッドと同じく高級感と品のある印象を相手にもたれやすくなるのです。
欧米諸国から広がり、現代でも使われている「レターヘッド」。よくよく見ると各企業の個性が表われており、面白い発見があるかもしれません。もし、受け取る機会があれば、デザインや質感をご自身で確かめてみてください。
文・鶴田有紀
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〈参考文献〉
・Vintage Letterheads and Billheads|Dunedin
https://the-lothians.blogspot.com/2015/02/vintage-letterheads-and-billheads.html
・Letterheads - Image Gallery Essay|Wisconsin Historical Society
https://www.wisconsinhistory.org/Records/Article/CS3591
・Cottonシリーズ 紙素材のご紹介|羽車公式サイト
https://www.haguruma.co.jp/useful-contents-and-inspirations/03416
・社用便箋・レターヘッド|羽車公式サイト
https://www.haguruma.co.jp/from-themes/59320