奥深い「張り子」の世界~多様なデザインと作り方にスポットを当てる~【後編】
2024/12/16
前編では歴史や文化にスポットを当ててお伝えした張り子ですが、後編となる本記事では、多様なデザインと張り子の作り方についてご紹介します。もしかすると、「張り子って作れるの?」と驚く方もいるかもしれません。実は、近年は張り子作りの本も刊行されており、秘かに注目されているのです。ものづくりが好きな方は、ぜひとも挑戦してみてください。まずは作り方をご紹介する前に、張り子のデザインについて見ていきましょう。
前編でも少し触れましたが、張り子は地域によってさまざまな色や形をしており、その点が魅力のひとつでもあります。今回は「地域」という枠組みから一旦離れて、他にどのような種類があるのかを見てみましょう。馴染みの物から目新しい物まで幅広いデザインの張り子をご紹介しますので、お気に入りを探してみてください。
まずは、定番のデザインです。張り子は、古くから「縁起物」として作られてきたこともあり、「福を招く」や「厄除け」にちなんだ作品が多数あります。例えば、商売繁盛の象徴とされる「招き猫」。金運の場合は右手を、集客の場合は左手をあげているそうです。そして、一般的には白い三毛猫のイメージが強いと思いますが、実は黒い招き猫もあり、こちらは厄除けや魔除けの意味合いもあります。また、色でご利益が異なる張り子というと、「だるま」もそのひとつです。定番色の赤は家内安全や開運を意味し、白は合格祈願と目標達成、黄色は金運上昇、ピンクは恋愛成就となります。最近は手のひらサイズの小さな張り子だるまも見かけるため、あやかりたいご利益の色のだるまを飾るのも良いかもしれません。その他にも、定番のものでいうと「おかめ」や「ひょっとこ」、「福助人形」、「干支」、「七福神」、「鯛」などもあります。
続いては、少し珍しい張り子をご紹介します。ひとつめは、「ふくら雀」。寒い冬に雀が羽の中に空気の層をつくり、自身の体をまんまるに膨らませている様子を表す言葉です。俳句の世界では、冬の季語にもなっています。そして、「福良雀」や「福来雀」などの字を当てはめる場合もあることから、富と繁栄を願う縁起物と言われているのです。なかには、背中に松竹梅や富士山など、縁起の良い柄を施したふくら雀もいます。また鳥モチーフでいうと、「みみずく」も珍しいのではないでしょうか。赤いみみずくを模した張り子は、江戸時代に慢性的に流行した伝染病である「疱瘡(天然痘)」から、子どもを守るために作られていました。当時、赤色には邪気を追い払う力があると信じられており、中が空洞の張り子は「病気が軽症ですみますように」という願いも込められていたようです。
画像:疱瘡除けの赤いみみずく
ちなみに、張り子のモチーフに採用される動物たちには、みみずくの「疱瘡除け」のように多様な意味が込められています。例えば、「フクロウ」は良く首が回ることから金運、「金魚」は名前に「金」が入っているため、こちらも金運の象徴になっています。その他にも、「猿」は不幸が去る、「カエル」は無事に帰る、「タヌキ」は他(ほか)を抜くという意味で商売繁盛、「蝙蝠(コウモリ)」は「蝠」が「福」と似ているため縁起が良いとされています。こうして見ると、納得できる由来から「少し強引では?」と思う由来まであり面白いですね。
このように、多種多様な姿形をしている張り子ですが、最近は「天使」や「サンタクロース」、「雪だるま」など、西洋風の張り子を自作する方もおり自由度が増している印象を受けます。「少し個性的で、可愛らしい張り子を作りたい!」という方は、『めでる張り子』(アトリエおはよう著)が参考になると思いますので、ぜひ手に取ってみてください。
それでは最後に、張り子の作り方をご紹介しますが、作品によって異なる部分もありますので、ここでは基本の作り方のみお伝えします。まず大まかな流れとしては、①油粘土を使い、土台となる型を作る②型にラップフィルムを巻き、その上に細かく切った和紙をでんぷん糊で貼る③乾燥させる④乾燥後、カッターを使い和紙と型(粘土)を切り離す(縦半分にして、前と後ろに分けるイメージ)⑤型から離した和紙を、木工用接着剤で貼り合わせる⑥「胡粉」と「にかわ」で作った下地を塗り、乾燥させる⑦彩色、となります。
上記の作り方を見て「私にもできそう」と思った方は、先ほど紹介しました『めでる張り子』(アトリエおはよう著/文化出版局)や、伝統的な張り子が作れる『おもしろ張り子』(前田ビバリー著/グラフィック社)などの書籍がおすすめです。張り子の種類が豊富なことは勿論ですが、写真やイラスト付きで分かりやすく解説しているため、作りやすいと思います。
古くから伝統工芸品や縁起物として作られてきた張り子ですが、時代と共に枠にとらわれないユニークな作品も登場しているようです。ぜひとも、自身の生活スタイルや好みに合った張り子を購入したり作ったりしてみてください。きっと、暮らしに彩を添えてくれると思います。
文・鶴田有紀
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〈参考文献〉
・『おもしろ張り子』前田ビバリー著|株式会社グラフィック社
・『めでる張り子』アトリエおはよう著|文化出版局
・「疱瘡除けの赤いみみずく」|日本玩具博物館
https://japan-toy-museum.org/monthly