地域によって異なる特徴をもつ「張り子」の魅力~その歴史や文化を辿る~【前編】
2024/11/26
和紙特有の質感と、可愛らしい見た目が特徴である張り子。古くから各地で、伝統工芸品や縁起物として作られてきたため、さまざまな種類が存在します。その愛らしさや職人の技に魅せられ、集めている人も多いのではないでしょうか。今回は、そんな魅力あふれる張り子の世界を前編と後編に分けてご紹介します。まず前編である本記事では、張り子とは何かを深掘りし、各地域で作られている張り子の歴史や文化を辿っていきましょう。
そもそも「張り子」とは、骨組み(土台)となる木や粘土に和紙を貼る技法、またはその技法で作られた玩具や伝統工芸品、人形を指す言葉です。中は空洞になっており比較的軽めではありますが、ある程度の耐久性もあります。有名な作品としては、福島県会津若松市の郷土玩具「赤べこ」や、東北地方のお祭りの際に見かける「ねぶた(ねぷた)」と呼ばれる大型灯籠があります。実際に見たり触ったりしたことのある方も、多いのではないでしょうか。
ところで、皆さんは「張り子の虎」ということわざをご存じでしょうか。このことわざは、香川県西讃地方の工芸品である張り子製の虎の人形からきており、「虚勢を張る人」や「見掛け倒しの人」を意味するそうです。なかなか手厳しい意味合いですが、張り子の作りから考えられたことわざがあるなんて、それだけ親しまれてきた工芸品ということでしょう。
それでは、張り子がどのような物か理解したところで、続いてはその歴史を辿っていきましょう。張り子は、室町時代に中国から伝わったと言われています。その後江戸時代に入ると、「反故紙(ほごがみ)」と呼ばれる不要になった和紙が大量にある城下町で、人形や玩具が作られるようになり全国に広まりました。不要になった物をそのまま捨てるのではなく、再利用する考え方が、江戸時代にはすでに根付いていたことが驚きですね。ちなみに、大阪でも反故紙が手に入りやすかったことから張り子玩具が盛んに作られ江戸時代中期には、西日本の張り子作りの中心地と呼ばれるほどに成長しました。その後、大阪を中心に兵庫県姫路市や奈良県御坊町など西日本の土地に浸透していきます。
画像:コラムの序盤に登場した「張り子の虎」。さまざまな色や表情の虎が存在する。
その他にも、沖縄県で作られている「琉球張り子」は、17世紀(江戸時代前期)に日本の本土から技術が伝わったと記録されています。はじめは、首里に暮らす上級士族の子女のために作られていましたが、明治時代以降になると庶民層にも流通するようになりました。タワチーオーセラー(闘鶏)やシーサーグワー(獅子)などを模した張り子が作られ、当時は、我が子の健康を願う縁起物として親が購入していたそうです。
そして先ほど少し触れた、福島県会津若松市の「会津張り子」。菅原道真公を祀った人形である「会津天神」だけでなく、コロンとしたフォルムが可愛らしい「赤べこ」や「起き上がり小法師」などでも知られています。その歴史は古く、1590年頃ほど昔の豊臣秀吉が活躍した時代までさかのぼるそうです。当時、秀吉に仕え会津の領主であった「蒲生氏郷(がもう・うじさと)」が、伊勢から領国の返還(国替)を命じられた際、下級武士たちの生活の支え(内職)になるようにと、京都から人形師を招き技術を習得させたことが始まりとされています。その後、時代は江戸に移りますが、張り子の作りは「比較的、階級の低い人々が行う内職」という認識であり、それは明治時代に入っても変わらなかったそうです。そのような過去をもつ張り子ですが、現在は後継者不足という問題も起きていますが、伝統を絶やさないために職人の方々が心を込めて丁寧に製作しています。
画像:会津張り子(左奥の2体が「起き上がり小法師」、右側が「赤べこ」)
今回は、張り子の歴史や文化にスポットを当ててお伝えしました。中国から伝来し、日本の伝統工芸品として根付いた張り子は、地域によって姿形が異なる点がとてもユニークですし、見た目からその地の歴史や文化も感じられるでしょう。そんな張り子の魅力は、まだまだあります。後編では、デザインや作り方などを中心にお伝えします。
文・鶴田有紀
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〈参考文献〉
・『おもしろ張り子』前田ビバリー著|株式会社グラフィック社
・張り子虎(田井民芸)|三豊市観光交流局
https://www.mitoyo-kanko.com/facility/hariko-tora/
・姫路張り子玩具|兵庫県
https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr09/ie07_000000042.html
・大阪の郷土玩具|大阪歴史博物館
https://www.osakamushis.jp/collection/minzoku/kyodogangu/kyodogangu.html
・特集「首里いっぴん?玩具Road Works?」|NPO法人首里まちづくり研究会
見出し「琉球張り子の歴史」
https://www.e-sui.com/oldsite/special/road_works.html
・西会津張り子|西会津町公式ホームページ
見出し「西会津張り子の由来」
https://www.town.nishiaizu.fukushima.jp/site/kanko/815.html